イントロダクション:
過剰な体脂肪の存在は、特定の腫瘍を有する患者におけるがんの発症リスクの増加および予後の悪化と関連している。GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は、2型糖尿病治療および体重減少に非常に有効な薬剤である。GLP-1RAはさらに、肥満患者における有害な併存疾患のコントロールに有効であることが分かってきているが、これら薬剤が肥満関連癌(OAC)のリスクを低下させるかは不明であった。本研究では、食道がん、乳がん、大腸がん、子宮内膜がん、胆嚢がん、胃がん、腎臓がん、卵巣がん、膵臓がん、甲状腺がん、肝細胞がん、髄膜腫、多発性骨髄腫を含む13のOACの各リスクの変化とGLP-1RAが関連するかどうかを調べるために、GLP-1RAとインスリンまたはメトホルミンが処方された2型糖尿病患者を対象にコホート研究を実施した。
【研究デザイン】後ろ向きコホート研究(米国)
【対象患者P】13種類のいづれの肥満関連癌既往歴がない2型糖尿病患者(N=1651452)
【介入E】①GLP-1RA有/インスリン無(N=48983)②GLP-1RA有/メトホルミン無(N=32365)
【対象C】①GLP-1RA無/インスリン有(N=1044745)②GLP-1RA無/メトホルミン有(N=856160)
【結果O】13種類の肥満関連癌の発症診断
【期間T】15年
結果:
①GLP-1群(N=48983)vs インスリン群(N=1044745)
・食道がん HR=0.60【95CI:0.42-0.86】
・乳がん HR=1.07【95CI:0.93-1.23】
・大腸がん HR=0.54【95CI:0.46-0.64】
・子宮内膜がん HR=0.74【95CI:0.60-0.91】
・胆嚢がん HR=0.35【95CI:0.15-0.83】
・胃がん HR=0.73【95CI:0.51-1.03】
・腎がん HR=0.76【95CI:0.47-0.61】
・肝細胞がんHR=0.47【95CI:0.36-0.61】
・卵巣がん HR=0.52【95CI:0.37-0.74】
・膵臓がん HR=0.41【95CI:0.33-0.50】
・甲状腺がんHR=0.99【95CI:0.79-1.24】
・髄膜腫 HR=0.37【95CI:0.18-0.74】
・多発性骨髄腫HR=0.59【95CI:0.44-0.77】
②GLP-1群(N=32365)vs メトホルミン群(N=856160)
・食道がん HR=0.94【95CI:0.60-1.47】
・乳がん HR=1.02【95CI:0.87-1.20】
・大腸がん HR=0.88【95CI:0.73-1.04】
・子宮内膜がん HR=1.11【95CI:0.86-1.43】
・胆嚢がん HR=0.37【95CI:0.13-1.02】
・胃がん HR=0.90【95CI:0.62-1.30】
・腎がん HR=1.54【95CI:1.27-1.87】
・肝細胞がんHR=0.97【95CI:0.76-1.23】
・卵巣がん HR=0.99【95CI:0.68-1.44】
・膵臓がん HR=0.93【95CI:0.74-1.16】
・甲状腺がんHR=1.10【95CI:0.86-1.41】
・髄膜腫 HR=0.54【95CI:0.25-1.17】
・多発性骨髄腫HR=1.18【95CI:0.89-1.56】
多くの肥満関連癌種で、GLP-1群がインスリン群と比較して、発症リスクの低下が示された。一方で、メトホルミン群と比較すると、有意なリスク低下となる癌種はなかった。
筆者考察
腎がんに発症リスクにおいて、GLP-1群はインスリン群よりもリスク低下を示した一方で、メトホルミン群と比較して、リスク増加を示した。この点はさらなる臨床試験およびメカニズムの解明が必要と考える。
本試験の限界としては、後ろ向きコホート研究というデザインの特性上、広範な変数のコントロールを行ってはいるが、交絡因子等のバイアスは完全な除去はできていないと思われる
個人的考察(批判的吟味)
発症リスク低下が、GLP-1使用によるそのものの影響なのか、体重減少による影響なのかまではこの結果からでは分からなかった。GLP-1使用でなくとも、肥満を解消することで、肥満がリスク因子と考えられる癌発症を結果として低下されているだけかもしれない。さらなる研究を見てみたい。